糖尿病の治療は、糖尿病の進行、糖尿病神経障害、糖尿病網膜症、糖尿病腎症の3大合併症、動脈硬化から起こる心筋梗塞や脳梗塞などを防ぐことを目標に行われます。
治療は血糖コントロールが基本となり、体重、血圧、血清脂質のコントロールも合わせて行っていきます。
なるべく早い段階で治療を開始して、肥満や高血圧、脂質異常症などを防ぐこと。低血糖や食後の高血糖を起こさないように血糖コントロールを行うこと。インスリンを分泌する膵臓のβ細胞の働きを弱らせないこと。が特に重要とされています。
食事療法は生涯にわたって継続される治療であり、良好な血糖コントロール下で生活の質を維持するために行われます。
1.糖尿病は食事療法で改善できます
糖尿病の治療は、糖尿病の原因となっている「インスリンの分泌低下」と「インスリン抵抗性」の改善を行うために、食事療法、運動療法、薬物療法が行なわれます。
食事療法と運動療法が基本となり、それでも目標とするコントロールに達しないときは薬物療法を用います。
特に食事療法は糖尿病にとって一番良い治療法であり、絶対に外せない治療でもあります。
2型糖尿病では、食事療法をきちんと行っていれば全体の7割の患者さんは血糖をコントロールできるといわれています。それほど、糖尿病患者さんにとって食事は血糖コントロールを左右する大切なものです。
過剰な食事摂取では血液中のブドウ糖が増えるので、インスリンの働きが不足している状態ではブドウ糖を処理しきれず、運動や薬でインスリンの働きを補わなければなりません。
しかし、インスリンの働きが不足している状態でも処理が上手く行える適正な食事摂取量であれば、それだけで血糖値は良好に保たれます。
大切なのは、患者さんひとりひとりの体や状態、生活スタイルに合わせた食事療法を行う必要があり、自分は何をどのくらい、どのようにし食べればよいのかということを知り、実践していくことなのです。
2.糖尿病改善食事療法の基本
食事療法は、自分に合った1日のエネルギー量を摂ることが基本となります。
1日3食の食事を規則正しく、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素をバランスよく摂るようにします。
適正エネルギー量で栄養バランスの摂れた食事は糖尿病の治療ばかりでなく、健康な人が将来、糖尿病の発症を予防することにも役立ちます。
<1日の適正エネルギー量>
1日の適正エネルギー量は、患者さんの年齢、性別、体重、身長、生活活動量、合併症の有無、血糖値などから考慮して、医師が判断します。
目安となる値は次の通りです。
標準体重(身長(m)×身長(m)×22)×身体活動量(軽労作:25~30kcal、普通の労作:30~35 kcal、重労作:35 kcal)=1日のエネルギー摂取量
身体活動量の軽労作とは主婦やデスクワーク中心の仕事の方、普通の労作とは立ち仕事や軽作業中心の方、重労作とは力仕事や肉体労働中心の方となります。
例えば身長160㎝で普通の労作の方(身体活動量が32 kcal)ですと、
1.6×1.6×22×33=1802.24
でおよそ1800 kcalとなります。
<1日3回の規則正しい食事>
血糖値の安定には、食事の時間、量を決めることが有効です。
食事の間隔が空いたり、1回の食事量が多くなったりすると、体脂肪がつきやすくなり、血糖値の急激な上昇を招きます。
朝食を抜くことや夜のドカ食いは避けるようにしましょう。
<栄養バランスの摂れた食事>
食事から栄養素をバランスよく摂るためには、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素が含まれる食品から満遍なく、できるだけ多くの種類の食品が摂れるように選びます。
1日の摂取エネルギー量を守ったうえでバランスのとれた食事を摂る方法は、病院での食事指導などで、主治医や管理栄養士から指導を受けることができます。
3.糖尿病改善食事療法を行う上での生活上の工夫
食事は毎日3度あることですから、1回1回の食事のメニューに完璧を求めようとして長時間、頭を悩ましていては継続することはできません。
毎日、苦なく継続するためにはポイントを押さえ、工夫を盛り込むことが必要です。
できるだけ毎回の食事に主食(ごはん、パン、イモ類など)、タンパク質を多く含む食品(肉、魚、大豆、乳製品など)、野菜のメニューを揃えるようにしましょう。
<摂取エネルギー量を抑えるための工夫>
・ ご飯茶碗を一回り小さいものに変えると、同じように8分目までご飯をよそっても見た目的に満足感が得られるうえに、カロリーを抑えることができます。外食の場合は、初めからご飯を少なめにしてもらうことや、和食の定食など品数が多く、油分の少ないメニューを選ぶようにしましょう。最近はレストランのメニューやコンビニ弁当にもカロリーや脂質が記されています。それらを有効活用して選びましょう。
・ 調理法を変えてカロリーダウンを図りましょう。 揚げる>炒める>煮る>蒸す>網焼き>茹でる の順にカロリーを抑えることができます。フッ素コートのフライパンを利用して油をひかずに調理することや、揚げ物の衣は外して食べる、香辛料やハーブ、レモンやゆずなどを風味づけに上手に使って塩分を控えることもおすすめです。
・ アルコールは医師の許可を得るようにしましょう。アルコール自体が高カロリーであり、一緒に食べるつまみでさらにカロリーを摂ってしまいます。飲料は水かお茶にするようにし、コーヒーや紅茶などの嗜好飲料は砂糖抜きで楽しむようにしましょう。
・ お菓子やジュース類などは少し摂るだけでもご飯一杯分のカロリーを軽く超えてしまうこともあります。果汁100%の野菜ジュースでも果糖が多く含まれており、血糖が高くなりやすいので好ましくありません。間食をする時は、カロリーを消費しやすい昼食と夕食の間に200kcal以内にとどめるようにし、生の果物や牛乳、無糖のヨーグルトなどを選ぶようにしましょう。
・ 食後の血糖値の上昇を抑える食べ方をしましょう。1日3回決まった時間に食べることはもちろん、血糖値が上がりにくい野菜類から先に食べ、ゆっくりよく噛んで食べるようにしましょう。良く噛んで食べると薄味でも素材の味を楽しむことができ、満腹感も得られるので、早く食べるのに比べて少ない量の食事で満足することができます。
<栄養バランスの摂れた食事にするための工夫>
・ 主食は白いものよりも茶色のものを選ぶとビタミン類や食物繊維などの栄養を一緒に摂ることができます。白米よりも玄米や胚芽米、雑穀米など、白いパンよりも胚芽入りパンや全粒粉パンなどを選びましょう。食後の血糖値の上昇が抑えられ、白いご飯やパンに比べて噛みごたえもあるので少量でも満足感が得られます。
・ 主菜は肉、魚、卵、大豆製品からローテーションで選ぶと栄養バランスが整いやすくなります。副菜には野菜や海藻類、きのこを毎回1メニューは加えるようにしましょう。野菜や海藻、キノコには食物繊維が多く含まれており、糖質やコレステロールの吸収を抑え、便秘の解消や老廃物の排出を促す効果があります。
・ できるだけ味付けは薄味にして塩分の摂りすぎに注意しましょう。醤油やソースなどの調味料はつけることで塩分をカットしましょう。カロリーを抑えることも必要ですが、高血圧を防ぐために塩分を控えることも大切です。減塩醤油や減塩ソースなどを利用する手もありますが、たくさんかけて摂りすぎると結果は同じですので、あらかじめ少しだけ小皿にとり、そこへ食材をつけて食べるようにしましょう。
4.糖尿病改善食事療法メニューの例
主食:玄米ご飯
主菜:白身魚とキノコのホイル蒸し
副菜:めかぶとオクラの和え物
副菜:エビとキュウリのカクテルサラダ、ヨーグルトマヨネーズソース
汁物:キャベツとじゃがいもの味噌汁
玄米やキノコで食物繊維をとり、主菜の調理法を蒸し物に、副菜のマヨネーズにヨーグルトを加えることでカロリーを抑えられます。
海藻や野菜をバランスよく摂り入れてミネラルやビタミンを補います。